近視は密かに進行している

小・中学生時代、学校の視力検査で1.5以上だった裸眼視力が、いつのまにか黒板の字が見えにくくったり、遠くから来る友人の顔がぼやけてしまい、やがて学校の視力検査や眼科の検診で、メガネの使用を告げられる、という経験をお持ちの方も多いと思います。
よく「急に近視になった」と言われる方もいらっしゃいますが、ある日突然近視になることはまずありえません。近視は徐々に進行しているのです。
小さい頃、あれだけ視力が良かった自分の目が、なぜ人によっては近視になってしまうのでしょうか?

近視の原因

ほとんどの人は、生まれたときは遠視であるといわれています。そして成長とともに眼球の大きさや角膜の屈折力が変化して、近視化が進むとされています。最終的な近視の度合いは、生まれ持った遠視の強さと、成長期の屈折力で決まると考えられています。
つまり、「急に近視になった」と感じるのは、もともと遠視だったのが徐々に近視化が進行するため、遠視が強いうちは自覚症状がないからです。正視の状態を超えて進行して、初めて自分が近視と気づいていくのです。

近視の詳しい原因は、まだはっきりとわかっていないのが現状です。本当にさまざまな説がありますが、いずれも医学的なエビデンス(根拠)がないのです。
近視の原因として多く挙げられるのが、「環境説」と「遺伝説」です。

環境説

近業環境説は、水晶体の厚みを変える毛様体の筋力の緊張によるものとしています。
近視が進むのは主に学生の頃ですが、この時期は骨格の成長とともに、眼球の大きさも変化し、角膜や水晶体の屈折力も大きくなるのが特徴です。
この時期に、無理をして勉強、読書、テレビ、PC、ゲームなど、近業(目を使う近くの作業)を続けると、目がほとんど遠方を見ないため、毛様体筋が絶えず収縮しつづけ緊張して硬くなってしまうことで、近視になりやすいといわれています。

また、スウェーデンのノーベル医学・生理学賞(1980)受賞者Torsten N. Wiesel医学博士の研究によると、生後すぐ片目を目隠しをされたヒヨコは、成長とともに目隠しされた側の目だけ眼軸長が異常に伸びてしまうことがわかったそうです。視覚という刺激が、眼軸長を微妙に調整していると考えられます。
つまり、成長期に長期間近業を続けていると、近くにピントを合わせるのが都合がよくなり、結果として少しづつ眼軸長が伸びていく可能性もあります。

遺伝説

遺伝的因子両親が近視の場合、子供が近視になる確率が高いとよくいわれます。また2004年には、1卵性双生児または2卵生双生児221組を対象にしたDNA調査から、PAX6という眼の発達に関わる遺伝子に欠陥があると、近視になりやすいという報告もあります。
この説では、成長過程からくる眼軸の伸びが、遺伝子によって決められているため、生まれつき近視になりやすい体質があると考えられています。

その他の説

その他にも少数派ですが、近視の原因にはいろいろな説が存在します。

  • 幼年期の炭水化物の摂り過ぎによる、慢性の高インスリン血症が原因とする説(栄養説
  • 就寝時に電灯を点けたままにする習慣のある家庭に育つなどして、幼年期に長時間網膜が光に曝されると近視が発生するとする説(照明説
  • 戦時に視力の良いものから徴兵されて死亡率が高まり、逆に近視者は死亡率が低かったことから、近現代で近視が増加しているという説(徴兵説
  • 昔と比べて体格が向上したため、その分眼球も大きくなり、軸性近視が増えたとする説。(体格向上説
  • 日本人は農耕民族なので、狩猟民族に比べて遠くをはっきり見る必要が少なく、近視の遺伝子が淘汰されなかったとする説(農耕民族説
近視の原因は1つではない

以上のようにさまざまな説がありますが、どれも一長一短です。
「環境説」が唱える毛様体筋の緊張がが近視の原因ならば、緊張をほぐすマッサージなどで近視が回復できるはずですが、医学的に効果は認められていません。
「遺伝説」なら、近視の両親の子供は100%近視であるはずですが、必ずしもそうではありません。また、遺伝子の同じ一卵性双生児でも、片方しか近視にならない場合もあります。

筆者の感覚では、10年ほど前までは遺伝説が有力でしたが、その後圧倒的に環境説が主流となり、現在では「遺伝的因子」と「環境的因子」が複雑に関連して近視になるという意見が多数を占めているようです。

近視の進行は、成長期が終わる18〜25歳で眼軸の伸びも屈折値も止まり、以降はほとんど変化しないようです。近年は近業が多くなったため、25歳以降でも近視は進行するという説もありますが、環境説ありきの意見ですので定説には至っていません。

近視の予防

結論から述べますと、近視の原因が特定されていない以上、はっきりした予防策はいまのところないというのが現状です。
もしも、環境説の一因とされる「近業」が原因であれば、

  • 正しい姿勢で読書や勉強をする。
  • 対象物と目の距離を30cm以上離す。
  • 1時間見続けたら5〜10分間目を休める。
  • 照明は適度な明るさにする

などが、一般的に有効であるとされています。
ちなみに照明に関しては、日本では「暗すぎると良くない」と言われていますが、欧米では「明るすぎると良くない」ことが強調されています。
これらは「遺伝説」からすれば、近視予防にまったく無意味・無関係なことですが、目以外の健康にも良いことだと思いますのでおすすめいたします。

以上、この章では近視について述べてきましたが、最後に近視や遠視などの屈折異常を測定する基準となる「視力について」説明します。



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